万堕落工務店徳田川安次郎顧問推定58歳

どんっ。
6人掛けのテーブルが犇めいた。
「折板屋根とは一体全体、工場みたいじゃないか。
しかもボルトがでるとは、バラックみたいになるぞ!」
徳田川安次郎(仮名)顧問推定58歳は、テーブルを拳で叩きながら憤慨しなすった。

本日は間もなく着工を控える住宅の打合せを万堕落工務店(仮名)で行った。
開始時刻は10:00の約束。
10:00きっかりに私とスタッフは、これまで何度か打合せをした
2階の打合せ室に到着するもどなたもいらっしゃらない。
あ〜まだ10:00丁度だし、資料の準備でもしてるんでしょてなことで、勝手にイスに腰掛け待つこと10分。
お茶汲みの女子が、階段を上がって来て、「今日はお約束でしょうか?」と聞いて来たので、「はい10:00に里山河原氏(仮名)と」と。
「少々お待ちください」「はい(少々待ってるがな)」。
と、携帯が鳴る。
里山河原氏からだ。
「あのー今どこにいらっしゃいますぅ?」
「おたくのオフィースの打合せ室ですが」
「あ〜、すいません。今日は道路向かいの別棟の打合せ室なんです」
「あ〜そうなんですね(聞いてねーよ)、向います」
道路を渡ると、外部階段の踊り場からタバコを吸いながら身を乗り出し
「ここですー」と、里山河原氏。「ここじゃないとウチ、煙草吸えないんですよね笑」
軽く無視し、指差した1階の受付カウンターとテーブルが2台ある広めのホールへ入る。
カウンターの中には、事務員らしき女子が5人いた。
誰も案内しないが、テーブルはここにしかないので、席に着く。
やがて煙草を吸い終わった里山河原が、やってきてもう一つのテーブルからイスをひとつ取り寄せて、5人が座れるようにセッティングしなさった。
正面の壁には、万堕落工務店の社長と思しき人が書いたであろう「努力」という毛筆書きの草書風文字が額入で掛けてある。
しばらくすると、ひとりふたりやってきた。
後方では5人の女子が雑務をこなしている。
設計チーフの里山河原はこれまで何度も、現場担当の酷目半平太(仮名)は、今日で会うのは2回目。
工事部顧問の徳田川と、工事部課長の丸出駄目男(仮称)とは初対面。
名刺を交換し目を合わさない程度に軽く挨拶を済ませ、着座。

ことの経緯は、この万堕落工務店の持つ土地を施主が気に入るも建築条件付き土地、つまりこの土地を購入する条件として建築工事もうちでセットでなければ販売しませんよというやつであったがため、万堕落工務店の設計施工を前提に家づくりがはじまった。
打合せを重ねど重ねど、施主は気に入るプランに出くわさず、途方にくれマイホームを諦めつつなモードに入りかけたそのとき、ホームページで我がコギトをみつけたのであるのである。
つまり設計はうち。施工は万堕落という図式は、そういうことである。

「北が上に配置されていない図面は、日本中どこさがしてもないぞ!」
それは建物が南北に長いのでA3用紙にレイアウトするには、90度回転させたほうがよいのですぞ徳ちゃん。

「パラペットをぐるっと回すから、内樋となるんじゃないか。なんでこんな金のかかるような設計をしたんだ。」
おたくさまが見積書を提出くれないから、金額がわかりませんのですぞ徳ちゃん。

「今どきタンク付きの便器は流行らんぞ」
徳ちゃんのつけてる紫の花柄のネクタイも流行らんだっちゃ。

「Bedてなんだ?」
あーごめんね。Bed roomって書かなきゃいけなかったね徳ちゃん。

「この納まりだとシナベニアの小口が見えるじゃないか。こんな納まりのデザインだと施主は納得しないぞ。」
そもそも徳ちゃんらの提出するプランが納得いかんかったから、うちに依頼がきたんじゃないのかなぁ。

技術的な仕様については、100歩譲って甘んじよう。
けどねデザインに口出しする立場ではない気がするなー。
バラックのどこがいけないの?

万堕落工務店徳田川安次郎顧問推定58歳は、とってもチャーミングである。