ねずみ男の弱点

なんじゃこりゃである。

初めての味覚。
豚汁がこんなにもまずかったのははじめての経験である。
味は里芋というところか。
味が里芋である。本当に、素の里芋。
何も足さない何も引かない只の里芋。なのでる。
何度も言うが、品名は豚汁である。

店に入った瞬間、五感がためらったのだが、時間もなかったので、そのまま席に着く。
テーブルの上はざらついていた。
奥の白髪のおやじがこっちをちらちら見る。
客はそのおやじと僕らのみ。
14型のブラウン管テレビ。
カビだらけのジプトン天井とラミネート天井。
ボコボコの化粧石膏ボードの壁と、Pタイルが全てはがれたコンクリートの土間。
灰色の空気。
晴天の昼間なのに西日が差し込んでいるかのような哀愁。

白がしわしわに薄汚れて灰色になった前掛け、つり上がった小さい目、丸まった背中、店主が厨房からこちらを伺ってる。
ネズミ男と名付ける。

メニューは壁に掛かってるお品書きを見る。
目が悪い僕は奥まで行く。
奥のおやじと近づく。
おやじが見てる。ばっちり見てる。
僕は見ない。

焼きそばと豚汁を頼んだ。
これなら失敗しないだろうという選択だ。

先に焼きそばがきた。
奇跡的薄味だった。
流行のヘルシーエコ系の遥か先をいく最先端薄味。
ウスターソースをしこたま入れてごまかした。

次に豚汁。

一生忘れることのできない味だ。
2口目はなかった。

Y食堂。
この20年余どうやったら継続してこれたのが、、、
不思議でならない。

それとも焼きそばと豚汁だけが数あるメニューの中でぬずみ男の弱点だったか。